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2010年2月 7日 (日)

井の頭自然文化園の「はな子」

東京都武蔵野市にある井の頭自然文化園には、「はな子」という
アジアゾウがいます。

先日、「平和への祈りをささげたい ~上野動物園にて」を書いたあと、
「そうだ、『はな子』に会いに行きたいなぁ」と、ずっと思っていました。
井の頭自然文化園の「はな子」には、私はとても思い入れがあるからです。

とっても冷え込んだ朝を迎えた昨日の2月6日、例によって朝イチで
井の頭自然文化園に行ってきました。天気は良かったのですが、
朝の空気はまだまだ冷たく、園内の噴水の水面が凍っていました。

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この朝、私は東京で初めて凍った水たまりを見ました。

朝イチということもあるのでしょうが、園内は人もまばら。
吉祥寺からほど近いにもかかわらず、いつも落ち着いたたたずまいの
井の頭自然文化園ですが、この日の園内は、真冬の冷たい空気が
余計に静けさを感じさせます。

私が好きなマーラくんも…

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今朝は寒いなぁ…むにゃむにゃ

朝から日向ぼっこしていました。

さて、なんでこの日にゾウの「はな子」に会いに来たか…
それは、この日に「はな子」のお祝い会があったからなのです。

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2月6日(土)は、はな子の「お祝い会」でした。

「はな子」は63歳。戦後最初に日本にやってきたゾウです。
まだ戦後間もない1949年、タイから上野動物園にやってきたのが、
この「はな子」なのでした。

つまり…上野動物園で戦争の影響で命を断たれてしまったゾウの
「ジョン」「トンキー」「ワンリー」たちの後を継ぐゾウとして、まさに平和の
使者として日本にやってきたのです。

その後、「はな子」は各地を巡る移動動物園に参加し、多くの子供たちに
たくさんの夢を与えたのち、武蔵野・三鷹市民の熱烈な呼びかけにより、
1954年に現在の井の頭自然文化園へやって来ました。

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井の頭自然文化園のアジアゾウ、「はな子」です。
足を曲げてステップを踏む「はな子さんステップ」は有名(?)です。

63歳の「はな子」は、戦後初めて日本にやってきたゾウであるとともに、
日本で最高齢のゾウでもあります。

昨年までは、小田原城址公園動物園にいたアジアゾウ「ウメ子」が、
「はな子」と同じ年齢ということで、もう一頭の日本最高齢のゾウだった
のですが、昨年9月に天寿をまっとうし、天に昇っていきました。

高齢の「はな子」は歯も衰えてしまい、食べ物を噛むことができません。
そこで、飼育係の人が野菜やジャガイモなどを細かくきざんであげたり、
「はな子」が大好きなリンゴやバナナ、干くさをやわらかくして丸めた
名物(?)「はな子団子」、そして流動食などをあげているそうです。

この朝も、飼育係の人から、バナナを口に入れてもらっていました。

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飼育係から、バナナを口に入れてもらう「はな子」さん。

足元には、飼育係の人が細かくきざんでくれた、ニンジンなどが
山盛りに積んでありますが、「はな子」はそれを食べようとしません。
寒いから食欲がないのか、それとも好き嫌いなのか…

山積にされた野菜の量は、たぶん野菜炒め数十皿分でしょうか。
それを刻む飼育係の人も大変だと思うのですが、そんな気も知らず
「はな子」は野菜には見向きもしないのです。

でも、その野菜をハトが盗みにやってくると…

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こら~、ワタシの野菜を盗むんじゃなーい!

…と、ハトたちを追い散らす元気もあります。

「はな子」は日本に来てから60年余り、決して平穏な日々ばかりでは
ありませんでした。

昭和30年代には、酔っ払ってゾウ舎に侵入してきた人と、飼育員を
死なせてしまうという事故があり、「殺人象」と大々的に報道されて
四つの足を鎖につながれて自由を奪われ、「はな子」は大荒れに荒れ、
心をすっかり閉ざしてしまい、やせ細ってしまったことがありました。
(現在、はな子の歯が無いのも、その頃の栄養失調が原因のひとつと
言われているそうです)

その後、再びパドックに出て公開されたときも、お客さんから「人殺し!」
と罵られたり、石を投げられたこともあったとか…

そんな「はな子」をいたわり、時にはお客さんからの罵声の盾となり、
まさに献身の努力で「はな子」の心を開いていった飼育員の話は、
「父が愛したゾウのはな子」という本になっています。

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ロープで遊ぶ「はな子」…今は平穏な日々です。

日本の戦後、高度成長期、そしてバブル期…
「はな子」が日本に来てから60年という年月は、私たち日本人が
戦後の貧しい時代から、現在のモノに恵まれた時代までの全てと
オーバーラップします。

「はな子」の目に映った人たちのスタイルも、その60年の間に大きく
変わったはずです。そして、「はな子」が目にした多くの人たちの中に
幼い頃の私もいたはずです…

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「はな子」はその目で、いったい何人の人を見てきたのだろう…

幼い頃の私は、吉祥寺からほど近い所に住んでいました。
吉祥寺へ買い物に行ったついでなどに、よく両親に連れられて
井の頭自然文化園に行ったものです。

もの心がついてから、たぶん初めて自分の記憶に刻み込まれた
大型動物が、井の頭自然文化園のゾウ…

そう、つまりこの「はな子」だったと思うのです。

幼い頃の私は、きっと「はな子」を見て無邪気に喜んでいただけで、
よもやその40年後に、こうして動物写真を撮り、果てはケニアの
サバンナまで行くようになった私がいるだろうとは、当然ながら
想像もしていなかったでしょう。

井の頭自然文化園で「はな子」と対面し、レンズを向けているとき、
幼い頃の私と「はな子」が対面している光景を想像してしまい、
その時代に、そのままタイムスリップしてしまうような錯覚に陥ります。

そして、私の幼い頃の姿を「はな子」が覚えているハズもないのですが、
幼い頃の私の姿を必ず見ているはずの、その優しい目を通して、
 生きていれば、いろいろなコトに出会うものよ…
 悲しいことにも、そして素晴らしいことにも。
と、はな子が静かに語りかけてくれるような気がするのです。

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生きて行くということは、きっと素敵なことなんですね、はな子さん。

現在の私の原点をたどっていくと、そこには「はな子」がいる…

だから、私にとって「はな子」はとても深い思い入れがあるのです。

そんな「はな子」と対面すると、子供の頃の純粋な気持ちになり、
そしてまた「自然体で動物たちと向き合おう」とも思うのです。

きっと、長寿の「はな子」には、似たような思い入れがある方が多い
のだと思います。この日、お祝い会が始まる前の静かな時間には、
「はな子」の前にたたずみ、語りかけるような目で対面している、
ご高齢の方を何人か見かけました。

「はな子」には、もっともっと長生きをしてもらって、私の原点として、
そして多くの人たちの里程標として、私たちを元気付けてほしい…
そんな思いで、私は井の頭自然文化園を後にしました。

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【追記】
平和への祈りをささげたい ~上野動物園にて」のコラムを
書いたのち、さらに調べていたら、実は上野動物園で餓死した
アジアゾウの「ワンリー」は、別名「花子」と呼ばれていたそうです。

戦後初めて上野動物園にやってきたゾウの「はな子」は、
同じく上野動物園で戦争の犠牲になった「花子」の名を引き継いだ
ことになります。「はな子」という名には、平和への思いが込められて
いたのかもしれません。

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コメント

はじめまして。こんばんわ。
ゾウは、ものすごく、賢くて、記憶力がいいって聞いたです。だから、もしかしたら、はな子さんは、幼い頃の、だいぴんさんを、覚えているかもしれない。。。と思うです。

投稿: solabou | 2011年4月23日 (土) 01時15分

solabouさん

コメントありがとうございます。

そう、ゾウは優れた記憶力を持っているそうですから…
覚えていてくれたら、とっても嬉しいんですけど。
とはいえ、なにぶん、はな子さんもご高齢ですから。

でも、たとえ覚えていてくれなくても、かつてはな子さんが小さな僕を見つめてくれた瞳を、今の僕が見つめているだけで、幸せな気持ちになれるんです。

はな子さんは、僕の原点なのですから。

投稿: だいぴん | 2011年4月23日 (土) 03時15分

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