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2010年10月

2010年10月27日 (水)

クマの不幸

最近、連日のようにクマによる被害がニュースや新聞で報道されて
います。今年はクマのエサとなるドングリが全国的に不作なので、
冬ごもりを前に食欲旺盛なクマが人里までエサを求めて下りてきて
しまっているのが原因、と言われていますが…

北海道ではドングリが不作でないにもかかわらず、クマが人里まで
下りてきているそうです。

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最近、ニュースによく出ているんだけど…悲しいニュースだな。
(ツキノワグマ 盛岡市動物公園)

今年はたまたまドングリの事情があって、人里に下りてくるクマが
多くなり、ニュースになる機会が増えていますが…
実は、人とクマが遭遇してケガをしたり、人里に下りてきたクマが
農作物を荒らすといったことは、今に始まったことではありません。

環境省によると、「クマを目撃した」という報告があがった件数は
例年でも2000件以上もあり、その数は増加しているそうです。

これは、言うまでもなく人とクマの距離が短くなっているのが原因。

ドングリが不作でもない北海道でも、クマが人里に出没する件数が
増えているのは、人との距離が近くなるにつれ、人を恐れなくなる
クマが増え始めた…というのが原因のひとつと言われています。

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たしかに、このツメで襲われたら大怪我をしてしまいますが…
(ツキノワグマの手 盛岡市動物公園)

人に危害が加えられるような局面では、人里に下りてきたクマが
射殺されてしまうのは、やむを得ないと思います。
ただ、そうして射殺されたクマの映像を見る度に、いたたまれない
気持ちになります。

開発によって狭められた住み処の森に、食べ物が少なくなる一方で、
人里には農作物や残飯などの食べ物が豊富にあるわけですから、
食べ物を求めて人里に下りてくるのは、クマにとっては自然な行動。

こうして射殺されたクマたちも、決して人を襲おうとか、農作物を
荒らそうと思って人里に下りてきたワケではないのですから。

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ホントは、人を襲おうなんて、思ってもいないんだけどな。
(ツキノワグマ 上野動物園)

私がいちばん心配なのは、こうしたニュースが数多く出ることで、
「クマは人を襲う危険な動物だ」「危険な動物は駆除して当然だ」
といった「クマ=悪者」という声があがることです。

本州全域の森林に住むツキノワグマは、雑食性ではあるものの、
基本的には草食性で春は木の芽、夏は昆虫類やアザミなどの草花、
秋はドングリなどの木の実、アケビなどの果実を食べています。

北海道に住むヒグマは、シカやイノシシなどを捕食することもあり、
ツキノワグマよりは肉食性が強い雑食ですが、それでも人間を襲う
ということはありません。

野生のライオンが人間を襲おうとしないのと同様に、ヒグマたちは
「人間=食べる対象」とは思っていないからなのです(→注1)

そんなツキノワグマやヒグマが、なぜ人を襲うことがあるのか…
それは、クマが身の危険を感じ、自分や子供たちを守るために、
接近してきた人を襲ってしまうのです。

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実はノンビリ、ゆったり、大人しいんだよ。
(ツキノワグマ とべ動物園・愛媛県)

大切なことは、人にとってもクマにとっても幸せな環境を作ること。

人里にクマをおびき寄せたのは、人間が原因です。

例えば里山の荒廃。かつて森と里との境目にあった里山は、動物と
人間との境界線の役割(緩衝地帯)を果たしていました。

でも、山村の過疎化・高齢化が進み、里山を手入れする人が少なく
なったことで緩衝地帯がなくなり、クマがいきなり人里へ出没する
ようになってしまった…というのは、ご存知の方も多いでしょう。

また、後継者がいなくなって放置された果樹園も、クマにとっては
絶好のエサ場になります。放置されたとはいっても、毎年ミカンや
リンゴなどの果実が実り、食べ放題なワケですから…

過疎化や高齢化が進む山村では、こうした問題は何とも解決し難い
ことだとは思いますが、少なくともクマが人里に出没するように
なった背景には、そうした問題があることは認識しておきたいです。

さらに、最近の登山やアウトドアブームで人間が山林の中に入り、
そこに残していった残飯をクマが食べて味を覚え、人里まで下りて
くるようになった…といったケースもあるようです。(注2)

そんなことが、人にとってもクマにとっても不幸な環境を作って
しまっているのですね。

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ホッキョクグマも、生息地のアラスカでは、人里に出現して
同じような問題が起きているとか。
(ホッキョクグマ 上野動物園)

クマが人里に下りてくる原因を作っているのが私たち人間ならば、
人里に下りて来ないようにするのも私たちの役割です。

かつては、九州全域にいたツキノワグマも、ここ50年ほどは九州での
目撃情報がなく、熊本、大分、宮崎の各県では絶滅宣言が出ています。
ここ数年急増している人里での捕獲(捕獲されたクマは、ほとんどが
殺処分されているのが現実)により、野生のクマの数が激減している
地域もあると聞いています。

このままでは、またひとつ、日本から野生動物が消えてしまうことに
なりかねません。

そうならないよう、野生動物たちと私たちが共存できる環境とは何か、
そして、私たちにできることは何なのか…今回のクマ出没ニュースが
そんなことを考えるきっかけになれば、と願うばかりです。

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クマは、本来は私たちと共存できる存在なのですから。
(ツキノワグマ 盛岡市動物公園)

(注1)人食いライオンと人食いクマ
過去には人食いライオンや人食いクマがいたことは事実です。
これらは、不用意に近づいた人間を自己防衛のために襲った動物が、
人を食べてしまい「人間=食べ物」という認識を持ってしまったため、
その後も人を襲うようになったものです。

そのため、ケニアではライオンが人を襲う事故が発生すると、襲った
個体を徹底的に探し出し、そのライオンの一家全員を射殺します。
やむを得ない処置ではありますが、これも不注意な人間がライオンの
領域に近づき過ぎて起こったことで、生命を絶たれたライオンにも、
貴重な野生動物を失った私たちにも、両方にとって不幸な出来事です。

(注2)森林で残飯を捨てること
私たちにとっては食べ残しでも、森林の動物にとってはご馳走です。
いくら穴を掘って埋めても、鼻の良いクマやイノシシにとっては、
見つけるのは容易なことで、隠しても何の意味もありません。

また、キャンプ場や河原のバーベキュー場も、日中は人でいっぱい
でも、夜はすぐ近くの森から野生動物が下りてくることもあり、
そこでいったん残飯を見つけると、また再び下りてきてしまいます。

残飯やゴミは一切残さず、持ち帰る。
そんなことも、実は野生動物たちを保護するために役立つことです。

bears

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2010年10月17日 (日)

お父さん、がんばって!

先日、私のもうひとつのブログ「一枚の動物写真」に、こんな記事を
載せたところ、読者の方からいくつかのコメントをいただきました。

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座っているダチョウを見かけたので、そっと近付いてみたら…
オスのダチョウが卵を大事に温めていました。
(ソマリアダチョウ サンブール国立保護区・ケニア)

寄せていただいたコメントは、「お父さん素敵!立派!」といった
ご意見が過半数。でも、そうしたコメントを寄せていただいたのは、
もちろんほとんどが女性です。

ふだんは、コメントを寄せていただくのは男性・女性半々なのですが、
この日だけは女性が多く、男性からのコメントは少なかったのは事実。

やはり、男性陣にとっては「耳が痛い」内容だったのでしょうか。

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耳が痛い話は、タヌキ寝入りでやり過ごすに限るね。
(ホンドタヌキ 茶臼山動物園・長野市)

「一枚の動物写真」のほうは、この「ポレポレで行こう!」とちがい、
その名のとおり1枚の動物写真に短いキャプションという構成なので、
動物の詳しい生態については説明していません。

なので…

卵をじっと温めているオスのダチョウの写真と、短いキャプションを
ご覧になった男性の皆さんは、「こ、これは…触れないでおこう」と
思われたのかもしれませんね。

その背景には…、
 「自分は子どもの面倒を、カミサンに任せきりだからなぁ」
と、ちょっぴり後ろめたい気持ちがあったからかもしれませんね。

でも、実は…

哺乳類は、基本的に「お父さんは子育てをしない」というのをご存知
でしょうか。実際に、私がブログに載せたのはダチョウ…つまり鳥類。
哺乳類ではないのです。

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やっぱり子育ては、カミサン任せで行こう~!
(アカカンガルー 多摩動物公園・東京都)

鳥たちが、オスとメスが交代しながら卵を温め、ヒナが孵るとやはり
オスもメスも甲斐甲斐しくヒナたちにエサを与える姿…

そうした姿をテレビの番組などでご覧になった方も多いでしょうし、
実際にツバメやヒヨドリなどの子育ての様子を、ご覧になった方も
少なくないのでは、と思います。

あまりにも大型で、鳥類であることを忘れてしまいそうなダチョウも、
オスはちゃんと子育てに参加し、ヒナを育てていきます。

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ダチョウは夫婦でヒナを大切に育てていきます。
(マサイダチョウの家族 マサイマラ国立保護区・ケニア)

では、鳥類ではオスも子育てに参加するのに、なぜ哺乳類ではオスは
子育てに参加しないのでしょうか。

その違いは、実は鳥類と哺乳類のいちばん「大きな違い」に起因して
いるのです。では、その違いとは何でしょう?

鳥類と哺乳類のいちばん大きな違いとは…飛べること?

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コウモリは哺乳類だけど、空を飛べるよ!
(インドオオコウモリ 長崎バイオパーク・長崎県)

そうですね、コウモリは哺乳類なのに、空を飛ぶことができます。
それに、ダチョウは鳥類なのに、空を飛べません!

では、クチバシがあること?

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鳥にクチバシ、これは切っても切れない関係だね。
(オオサイチョウ 東武動物公園・埼玉県)

いえいえ、哺乳類にもクチバシがある動物がいるんです。
その名はカモノハシ。残念ながらカモノハシの写真がないので、
その姿をここでご紹介することができませんが…

さらに、驚くことにカモノハシは卵まで産むんです!!
でも、カモノハシは哺乳類に分類される動物。それはなぜ??

ここで「哺乳類」という文字を、改めてよく見ると…
つまり、ホニュウルイとは「哺乳する動物」という意味。つまり、
「お乳で子どもを育てる動物」、それが哺乳類なのですね。

カモノハシは卵から産まれた子をお乳で育てるという、非常に
珍しい動物なのですが、お乳で子どもを育てるということから、
「哺乳類」に分類されているのです。

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哺乳類とは、お乳で子どもを育てる動物を指すのです。
(インパラの母子 マサイマラ国立保護区・ケニア)

鳥類はオスとメスと交代で卵を温め、ヒナが孵るとオスもメスも
せっせとヒナにエサを運び、与えます。
この行動はオスもメスも関係なくできることで、ヒナを早く育て、
巣立たせるためには、オスとメスの共同作業をした方が効率的。

なぜ、そんなに効率的に育てなければならないか、というと…

いっけん安全そうな巣も、外敵に見つかってしまったら危険。
ヒナは飛べないので逃げられず、一発で餌食になってしまいます。
そのためには、一刻も早く育って巣立つことが大切なのですね。

さらに巣立っても、ヒナ鳥たちが成長して翌年に繁殖できるまで
育つ確率は非常に低いため、親鳥はヒナ鳥がひとり立ちすると、
また次の子作りを始め、できるだけ多くの子孫を残さなければ
なりません。

自分たちの種の保存のために、鳥たちは効率的に子どもを育てて
いく必要がある…ということなのですね。

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効率的といってもね、ちゃんと大切に育ててるよ。
(ライラックニシブッポウソウ ナクル湖国立公園・ケニア)

では、哺乳類はどうでしょう。

哺乳類はお乳で子どもを育てます。つまり、母乳で育てるという
わけなのですが、「母乳」というくらいですから、この役はオス、
つまり父親にはできません。

子育てに参加できないどころか、母子と一緒にいると食い扶持が
増えてしまうため、逆に邪魔モノ扱いされることになります。

そのため、哺乳類の多くはメスが子育てを担当し、オスは子育てを
せずに、ひとりで放浪していることが多いのです。

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ゾウの群れは基本的に母系集団。成熟したオスはいません。
(アフリカゾウ マサイマラ国立保護区・ケニア)

ここまで読まれた男性諸氏!

「オレ様も哺乳類だから、子育てはカミサンに任せておけば…」と
思うには、まだ早いですよ!

こういう光景をサバンナで見かけることがあります。

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中には、子どもと一緒にいる父親を見ることがあります。
(ライオンの父子 マサイマラ国立保護区)

「基本的に哺乳類のオスは子育てをしない」というのに、なぜ?
百獣の王ライオンなんて、最も子育てしなさそうな動物なのに、
この子どもとの仲むつまじい光景はいったい…!?

実際には、哺乳類の中には子どもと一緒にいるオスもいるのです。

たとえば、タヌキやキツネ、オオカミなどのイヌ科の動物たちは、
群れの中で父親が非常に重要な役割を果たしています。

その「役割」とは、教育係。
群れの中の規律や狩りの方法、危険察知の仕方など、生きるために
必要な知識を、子どもたちに教えていく役割…

とても重要な役割ですね!

いちばんわかりやすいのはサルの群れで、オスのボスザルは、
自分の子どもでなくとも、まだ小さいうちは、踏んづけられ
ようが乗られようが怒ったりしませんが、ある程度成長して
分別がつくようになってくる頃から、群れの中でのルールを
教えていくようになるのは、ご存知のとおりです。

その他、高度な社会性を持つことで知られるミーアキャットも、
オスは教育係として重要な役割を持っているのだとか…

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ウチのボスは、特にコワイんだ…今朝も怒られちゃった!
(ニホンザル 大森山動物園・秋田市)

つまり…

哺乳類のオスは、基本的には「子育て」はしませんが、高度な
社会性を持つ動物では、オスは「教育係」として重要な役割を
担っていて、子どもにとっては欠かすことができない存在という
ことになるのです。

「オレは哺乳類だから、子育てはカミサン任せでいいんだな!」
…と思った父親のみなさま。どうやら、哺乳類の世界はそんなに
甘くはないようで、やはり家族の中での父親の存在は重要という
ことのようですよ。

くれぐれも…

「食い扶持が増えるだけ」の存在にならなうように、ご注意を!

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ゾウの子育ては、母親任せだから気楽でいいゾー。
(オスのアフリカゾウ マサイマラ国立保護区・ケニア)

ちなみにオスのライオンですが…。

エサとなる獲物を狩るのはメスの役割ですが、食べる順位は一番。
子育てはおろか、子どもに狩りの仕方を教えるのも母親の役割…
と、群れのオスのライオンは、とにかく怠け者ですが。

でも、他のオスから子どもを守るという重要な役割を担っていて、
イザという時は命がけの闘いをするのです。普段は怠け者でも、
イザという時は頼りになる存在…というワケですね!

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父親のみなさま、がんばって!!
(オスのライオン 東武動物公園・埼玉県)


fight!

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2010年10月13日 (水)

キツネさんの悲劇

先日、私が書いているもうひとつのブログ「一枚の動物写真」に、
ヨーロッパオオカミが穏やかな顔で寝ている写真を掲載したところ、
「オオカミって、怖いイメージなのに…」という感想をいただき
ました。

以前に「オオカミって悪者なの?」という記事を掲載したことが
ありますが…「怖い」というイメージは、言うまでもなく人間が作り
あげたものであって、当のオオカミにとっては迷惑な話ですよね。

オオカミと並び、「悪者」のイメージがある動物といえば…

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まさか、ボクのこと!? …なんて言わないでよね?
(ホンドギツネ 東武動物公園・埼玉県)

そう、残念ながらキツネさんです。

「え?そうかなぁ…」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
日本人にとってキツネは、稲荷神社で神様のお使いとして祀られて
いるように、実は神聖なる動物というイメージがあるので、「悪者」
のイメージがあまり強くない…というのが実態かもしれません。

オオカミと同様、農作物を荒らすネズミを捕らえてくれるものとして、
キツネも古来から日本では「豊穣の神」であり「富をもたらすもの」
という側面が強かった…というのもあるでしょう。

ところが、そういうイメージを持っているのは日本人くらいのもので、
特にヨーロッパでは「陰険で狡猾な動物」という印象が強いのです。

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いま、穴掘りで忙しいから…そんな話は後回しにして!
(ホンドギツネ 盛岡市動物公園)

その理由は、2つの寓話によるものです。

ひとつは、言うまでもなく「イソップ物語」です。

イソップ物語には、実に多くのキツネが登場します。
「すっぱい葡萄」「キツネとツル(原題はツルではなくカラスだとか)」
「お腹のふくれたキツネ」「井戸の中のキツネとヤギ」「病気のライオン
とオオカミとキツネ」などなど…

これらの物語に登場するキツネは、ずるがしこく悪さをたくらむけれど、
最後は失敗して痛い目に遭う…という共通したパターンを持っています。

イソップ物語は道徳的な教訓を与えるための物語であると同時に、当時の
世情を風刺した側面もあり、ずる賢く振舞い、世渡りを上手にやっている
「イヤな奴」の代表としてキツネが登場し、最後にしっぺ返しを食らって
逃げていく姿に、当時の人々は小気味よさを感じていたのでしょう。

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はぁ、穴掘りは疲れるなぁ。え?僕がずる賢い?なんのこと!?
(ホンドギツネ 盛岡市動物公園)

もうひとつの寓話は、フランスの「ルナール物語」です。

このルナール物語というのは、紀元前の作とされるイソップ物語よりも
はるかに後、12世紀後半に作られた物語です。
キツネのルナールが主人公で、多くの部分でイソップ物語と共通性があり、
言うなればイソップ物語の中からキツネが出て来る物語を抽出し、当時の
「現代版」にアップデートされたもの…と言えるかもしれません。

やはり、当時の世情を風刺したものとして、当時のフランスをはじめ
主にヨーロッパ各地で大流行し、数々の「枝編」と呼ばれる物語が生まれ、
さらにルナール物語をベースとした「別の」ルナール物語が世界各地で
生まれたようです。

このルナール物語。
現在では「キツネ物語」という名前の方が一般的で、フランス語でも
ルナール(renard)とは「キツネ」を意味します。

フランス語でキツネのことをルナールと言うので、「狐物語」というワケ
ですね…と言いたいところですが、それは逆なのです。
実は、このルナール物語が世に出る前までは、フランス語でキツネは
「グーピル(goupil)」と呼ばれていたのです!!

つまり。

あまりにも「ルナール物語」が流行したため、いつしかキツネのことを
「ルナール」と呼ぶことになり、それが最終的に定着して、フランス語で
キツネのことを「ルナール」と呼ぶことになったのですね。

試しに「goupil」を仏和辞典で調べてみると…
goupil 【古】狐(=renard)
と、ちゃんと書いてあります。(クラウン仏和辞典)

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ボク、フランス語はわからないけど…
(ホンドギツネ 井の頭自然文化園・東京都)

これはキツネにとって哀れとしか言いようがありません。

「ずる賢い」というイメージと、「ルナール」という主人公のキツネが
セットのまま、「ルナール=キツネ」という意味になったのですから!
「キツネ=ずる賢い」という構図は、崩れようがないのです。

キツネさん、ここまで来ると本当にかわいそう…
もしかしたら、オオカミよりもかわいそうな存在なのかもしれません。

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そんな…ボクは何も悪いこと、してないのにナ。
(ホンドギツネ 富山市ファミリーパーク)

言うまでもなく、本物のキツネは「ずる賢い」などということはなく、
森や野原の生態系の中でも無くてはならない、重要な存在です。

キツネを「害獣」として駆除している実態もあるようですが、それは
あくまでも人間がキツネの生活範囲の中に入って生活しているからで
あったり、狩猟目的で本来の生育地ではない場所に移入されたものが
家畜を襲うようになったことが原因で、キツネそのものが「害のある
動物」というものでもありません。

野生のキツネは、家族の絆が非常に強いく、高いコミュニケーション
能力があることでも知られており、非常に「賢い」動物です。
本来は身近な野生動物のひとつとして、親しまれるべき動物なのだと
私は思います。

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野生の仲間たちも、平和に暮らせるといいなぁ…
(ホンドギツネ 井の頭自然文化園・東京都)

ちなみにスペイン語でキツネは「zorro」(発音はソーロ)だそうで、
「怪傑ゾロ」のゾロもこのzorroから来ているそうです。

もっとも、コチラは「ずる賢い」のではなく、強きをくじき弱きを助く、
大盗賊にして真の紳士、いわば正義のヒーローなのですが!

zorro

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2010年10月10日 (日)

あの時の感動を忘れずに ~ブログ開設1周年~

動物のさまざまな話題を中心とした当ブログ「ポレポレで行こう!」も、
ようやく開設1周年を迎えました。

文章が非常に長く、決して「気軽に読める」ブログではありませんし、
重たいネタゆえに「週2回更新」を原則としながらも、更新の間が空いて
しまったり…そんな「ポレポレで行こう!」ですが、こうして1年間も
続けることができ、さらに1周年直前で「1万アクセス」を迎えることが
できたのも、懲りずに読んでいただける皆さんのおかげです。

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読んでいただける皆さんのおかげだねぇ、だいぴんさん
(ニホンカモシカ 茶臼山動物園・長野市)

この「ポレポレで行こう!」が何を隠そう、初めて書いたブログで…
つまり、自分の写真を公の場に発表するのも初めて、というワケで。
さらに、自分の文章を公開するのも、小中学生の頃の文集以来のこと。

どうやったら楽しんでいただけるのか、手探りの状態で始めました。

最初は写真数枚と簡単な動物の紹介で始めようと思ったのですが、
生来の「動物の話題になると、つい熱くなる」という性格が頭をもたげ、
とてもそんな「簡単に」済むワケがなく…

案の定、どんどん文章が長くなってしまいました。

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ホント、まず前置きが長いよね、このブログは。
(シンリンオオカミ 大森山動物園・秋田市)

ただ、この1年間で…

ブログを書くために、本や論文(!)を読んでいろいろと下調べをする
ことで、それまで散漫だった知識が整理されただけでなく、新たな知識、
動物たちに対する驚き、そして動物たちが置かれている状況や、人との
関わり、取り巻く自然環境の問題など、いろいろと考えさせられたのも
事実です。

最初は単なる動物紹介のつもりで始めたブログも、だんだんと「動物に
関心をもってもらい、私たち人間とのかかわりの中で、動物たちについて
考えるキッカケになれば…」という思いを込めて書くようになりました。

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おぉ、たまには良いこと言うねぇ
(アミメキリン 八木山動物園・仙台市)

そんな思いを込めて書いている「ポレポレで行こう!」ですが…

これまでに書いた中で、現在のところアクセス数が多いページはコチラ、
井の頭自然文化園の「はな子」】です。

国内最高齢のアジアゾウ、東京都武蔵野市にある井の頭自然文化園の
「はな子」のお誕生会へ行った時に書いたブログですが…
掲載以来アクセスが常にあり、いろいろな方にお読みいただいています。

その他には、冬になり寒さが厳しくなると、このシリーズが大人気でした!

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そろそろ、温泉のシーズンだねぇ
(カピバラ 長崎バイオパーク・長崎県)

そう、お風呂に入るカピバラたちをご紹介した「カピバラが行く!」の
シリーズです。

このシリーズの取材には、なんと長崎バイオパークに通うこと3回!
このブログの中で「最もお金がかかったブログ」は間違いありません。
今年もまた、冬のシーズンになったら取材へ行こうと思っています。
(何といっても、年間パスポートを買ってしまったのですから!)

自分で言うのもナンですが…私が個人的にイチバンお気に入りなのは、
サバンナの風に聴く Back Ground Music」です。

サバンナの真ん中に立ったとき、頭に浮かぶ音楽はあるのか…?
というだけの内容なのですが、このブログを読み返す度にサバンナが
恋しくなってしまいます。

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今回も、長いブログになりそうだね。
(ブチハイエナ マサイマラ国立保護区・ケニア)

さて、そんな「ポレポレで行こう!」なのですが、続けていくうちに、
「動物写真と、そこに書かれている動物のつぶやきが面白い」という
読者の方の声を受けて、今年の8月に動物写真をメインとしたブログ、
一枚の動物写真」を開始しました。

とにかく毎日、1枚の動物写真と簡単なキャプションだけで綴って行く
ブログ。動物園とサバンナの両方の写真を使いながら、まずは365日を
目標に連載したいと思っています。

Tobuzoo_d30_8508
2つのブログ、よくやるねぇ。がんばってねー。
(シタツンガ 東武動物公園・埼玉県)

「一枚の動物写真」を開始してしばらくして…アフリカでのサファリの
様子を記したブログはないかな、と思って探していたら…
ある方のブログに出会いました。「ある方」とはクラッシック音楽の
女性演奏家で、動物やアフリカとは直接は関係のない方なのですが。

その方の、10回にもわたり連載された「アフリカ・サバンナへの旅」を
読んで、素直に感動してしまったのです。

初めてケニアを訪れる楽しみ。サバンナに出て、見るもの、触れるもの、
全てにワクワクする気持ち。そして、いつまでも忘れられない感動が、
写真とともに綴られています。

そのブログを読んだときに、私が初めてケニアへ行った時の感動が心に
よみがえり、そのブログを書かれた方に共感してしまったのでした。

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初めてケニアを訪れた時の感動、いつまでも忘れたくないものです。
(朝陽の中のキリン マサイマラ国立保護区・ケニア)

動物写真を撮り始めて十数年。
撮りためた写真を発表する場として、まずはブログを始めたのですが…
そのスタート地点は、ケニアでの野生動物たちとの出会った時の感動。

サバンナでも動物園でも、動物たちと向き合うときは、あの時の感動と
ワクワク感をいつまでも忘れないでいたい…と思います。

これからも、動物たちへの思いを込めながら「ポレポレで行こう!」を
書き続けていきますので、引き続きよろしくお願いいたします

one-year

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2010年10月 6日 (水)

みんなで仲良く! ~生物多様性条約

机の中を整理していたら、こんなメモを見つけました。

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かわいい動物たちのイラストが描かれた小さなメモ帳です

たぶん…数年前に多摩動物公園で買ったものでしょう。

動物たちが楽しそうに仲良く集まっている様子が、とっても可愛いなぁ。

ほのぼのとメモ帳を眺めていて、ふと思いついたことがありました。
「生物多様性条約って、結局はこういうことなのかな」…と。

10月11日より、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議が開催
されます。

この国際会議が開催されるのに関連して、テレビ番組などで動物たちを
特集した番組が放送されているので、「動物に関連する条約らしいぞ?」
ということはわかるのですが…

でも「動物」ではなく「生物」だし、「多様性」なんて難しいコトバが
入っているし…結局のところ、この条約って何のことよ!?
動物保護に関しては、ラムサール条約とか、ワシントン条約なら知って
いるけれど、それとどう違うのよ!?

…と思う方も、多いのではないでしょうか。

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セイブツタヨウセイ? それって、美味しいのかい?
(ナイルワニ マサイマラ国立保護区・ケニア)

たしかに、野生生物保護の国際条約としては、「ラムサール条約」と
「ワシントン条約」が有名です。

ラムサール条約は、湿地の保存を目的とした国際条約。
湿地の生態系を守ることが目的で制定された条約で、その制定は古く
1971年です。

海に囲まれ、湖沼も多い日本には、ラムサール条約に登録された湿地が
多いため、自然保護に関する国際条約の中では、私たち日本人にとって
馴染みのある条約かもしれません。

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フラミンゴの大群で有名なケニアのナクル湖も登録されています。

いっぽうのワシントン条約。
こちらは絶滅の恐れがある動植物の国際取引を規制する条約です。

条約の対象となる動植物は「附属書」という形でリストアップされており、
絶滅危惧のレベルに応じて、取引規制の強さが異なります。

直接的に野生動植物の保護をする条約ではありませんが、生きている
状態の動植物だけでなく、例えば牙や骨、皮などから作られた製品の
取引まで規制するという点では、かなり強力な条約だと言えます。

どちらも有名な条約ではありますが、簡単にまとめれば…
 ラムサール条約:湿地の生態系を保存することが目的
 ワシントン条約:絶滅の恐れがある動物の保護が目的

ということになり、地球上の野生動植物から見れば、限定的な内容と
言わざるを得ません。

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実際には、地球上にはいろんな動物たちがいるのですから…

実は、湿地に住む動植物も、絶滅の恐れがある動植物も、その動植物
だけを保護したところで「絶滅の危機から救う」ことにはなりません。

例えば…

ラムサール条約で湿地の生態系をいくら保護しても、湿地に流れ込む
川が枯れてしまったら湿地も環境が変化し、生態系が崩れてしまいます。

川を健全な状態に保つためには、上流の森林を守る必要がありますし、
森林を守るためには、森の中に生きる動物たちも重要な存在です。

森の中でも、シカが増えすぎたら森が食害によって荒れてしまいますから、
シカを適正な数に保ってくれる天敵…たとえばオオカミなどの存在も重要
になります。

つまり…

「オオカミが湿地を守る」ということも、言えなくもないのです。
これはまさに「風がふけば桶屋がもうかる」の世界ですが、湿地の生態系
には、湿地以外の多様な動植物も関与している、ということに他なりません。

…ということは。

いくらラムサール条約やワシントン条約で、特定の動植物を保護しても、
根本的な「野生動植物の保護」になっているワケではなく、野生動植物を
保護するためには、いかに多様な動植物が生存できる環境を維持、保護
するかが大切…ということになるワケです。

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野生動植物は、多様な動植物の関与の中で生きているのです。

ここで、ようやく「生物多様性条約」の登場です。

生物多様性条約というのは、実は「ラムサール条約」や「ワシントン条約」と
いった、限定的な条約の上位に位置している条約です。

…と言うと、難しく聞こえてしまいますが、つまり、こういうことです。

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「地球全体の動植物」を対象にしたのが生物多様性条約です。
※この図は概念的な考え方を示したもので、各々の条約の関連性を
 正確に表したものではありません。
※ここに示した条約は、自然環境保護を目的とした条約の一例です。

野生の動植物たちは、お互い深くに関係して生存しています。
なのに、個別の動物や環境を保護するための条約はあっても、動植物
全体の関係性(=多様性)を保護するための条約がない…

そんな背景から生まれたのが「生物多様性条約」なのです。
地球上の生物が、互いの関係を良好に保てるようにしましょう、という条約。
保護の対象は、地球上の動植物全体です。

地球上の動植物全体を対象としている、という特徴の他に、この条約には、
ほかの自然保護条約にはない特徴があります。

それは人間との共存を考慮し、「多様な動植物の持続可能な利用」を明記
していることです。

つまり、野生動植物や自然環境が存続できるレベルで利用をすると同時に、
人間もまた「地球上の多様な動植物の一員」として、動植物の多様性を維持
する責務も負う、というのが主旨なのだろうと思います。

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私たちも、地球上の多様な動植物の一員なのです。

10月に始まる生物多様性条約会議。

難しい顔をした人たちが世界中から集まってきて、議論を交わし、最終的に
声明を採択し発表するのでしょうけれど。

そこでは、要するに「私たちを含めた地球上の仲間たちが、どうしたら皆で
仲良く暮らしていけるのか?」を考えている…と思うと、難しい名前の条約も、
身近に感じることができませんか?

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みんなで仲良く!それが生物多様性条約の主旨なのです。

Convention on Biological Diversity

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