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2010年10月13日 (水)

キツネさんの悲劇

先日、私が書いているもうひとつのブログ「一枚の動物写真」に、
ヨーロッパオオカミが穏やかな顔で寝ている写真を掲載したところ、
「オオカミって、怖いイメージなのに…」という感想をいただき
ました。

以前に「オオカミって悪者なの?」という記事を掲載したことが
ありますが…「怖い」というイメージは、言うまでもなく人間が作り
あげたものであって、当のオオカミにとっては迷惑な話ですよね。

オオカミと並び、「悪者」のイメージがある動物といえば…

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まさか、ボクのこと!? …なんて言わないでよね?
(ホンドギツネ 東武動物公園・埼玉県)

そう、残念ながらキツネさんです。

「え?そうかなぁ…」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
日本人にとってキツネは、稲荷神社で神様のお使いとして祀られて
いるように、実は神聖なる動物というイメージがあるので、「悪者」
のイメージがあまり強くない…というのが実態かもしれません。

オオカミと同様、農作物を荒らすネズミを捕らえてくれるものとして、
キツネも古来から日本では「豊穣の神」であり「富をもたらすもの」
という側面が強かった…というのもあるでしょう。

ところが、そういうイメージを持っているのは日本人くらいのもので、
特にヨーロッパでは「陰険で狡猾な動物」という印象が強いのです。

Morioka_d30_6722
いま、穴掘りで忙しいから…そんな話は後回しにして!
(ホンドギツネ 盛岡市動物公園)

その理由は、2つの寓話によるものです。

ひとつは、言うまでもなく「イソップ物語」です。

イソップ物語には、実に多くのキツネが登場します。
「すっぱい葡萄」「キツネとツル(原題はツルではなくカラスだとか)」
「お腹のふくれたキツネ」「井戸の中のキツネとヤギ」「病気のライオン
とオオカミとキツネ」などなど…

これらの物語に登場するキツネは、ずるがしこく悪さをたくらむけれど、
最後は失敗して痛い目に遭う…という共通したパターンを持っています。

イソップ物語は道徳的な教訓を与えるための物語であると同時に、当時の
世情を風刺した側面もあり、ずる賢く振舞い、世渡りを上手にやっている
「イヤな奴」の代表としてキツネが登場し、最後にしっぺ返しを食らって
逃げていく姿に、当時の人々は小気味よさを感じていたのでしょう。

Morioka_d30_6732
はぁ、穴掘りは疲れるなぁ。え?僕がずる賢い?なんのこと!?
(ホンドギツネ 盛岡市動物公園)

もうひとつの寓話は、フランスの「ルナール物語」です。

このルナール物語というのは、紀元前の作とされるイソップ物語よりも
はるかに後、12世紀後半に作られた物語です。
キツネのルナールが主人公で、多くの部分でイソップ物語と共通性があり、
言うなればイソップ物語の中からキツネが出て来る物語を抽出し、当時の
「現代版」にアップデートされたもの…と言えるかもしれません。

やはり、当時の世情を風刺したものとして、当時のフランスをはじめ
主にヨーロッパ各地で大流行し、数々の「枝編」と呼ばれる物語が生まれ、
さらにルナール物語をベースとした「別の」ルナール物語が世界各地で
生まれたようです。

このルナール物語。
現在では「キツネ物語」という名前の方が一般的で、フランス語でも
ルナール(renard)とは「キツネ」を意味します。

フランス語でキツネのことをルナールと言うので、「狐物語」というワケ
ですね…と言いたいところですが、それは逆なのです。
実は、このルナール物語が世に出る前までは、フランス語でキツネは
「グーピル(goupil)」と呼ばれていたのです!!

つまり。

あまりにも「ルナール物語」が流行したため、いつしかキツネのことを
「ルナール」と呼ぶことになり、それが最終的に定着して、フランス語で
キツネのことを「ルナール」と呼ぶことになったのですね。

試しに「goupil」を仏和辞典で調べてみると…
goupil 【古】狐(=renard)
と、ちゃんと書いてあります。(クラウン仏和辞典)

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ボク、フランス語はわからないけど…
(ホンドギツネ 井の頭自然文化園・東京都)

これはキツネにとって哀れとしか言いようがありません。

「ずる賢い」というイメージと、「ルナール」という主人公のキツネが
セットのまま、「ルナール=キツネ」という意味になったのですから!
「キツネ=ずる賢い」という構図は、崩れようがないのです。

キツネさん、ここまで来ると本当にかわいそう…
もしかしたら、オオカミよりもかわいそうな存在なのかもしれません。

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そんな…ボクは何も悪いこと、してないのにナ。
(ホンドギツネ 富山市ファミリーパーク)

言うまでもなく、本物のキツネは「ずる賢い」などということはなく、
森や野原の生態系の中でも無くてはならない、重要な存在です。

キツネを「害獣」として駆除している実態もあるようですが、それは
あくまでも人間がキツネの生活範囲の中に入って生活しているからで
あったり、狩猟目的で本来の生育地ではない場所に移入されたものが
家畜を襲うようになったことが原因で、キツネそのものが「害のある
動物」というものでもありません。

野生のキツネは、家族の絆が非常に強いく、高いコミュニケーション
能力があることでも知られており、非常に「賢い」動物です。
本来は身近な野生動物のひとつとして、親しまれるべき動物なのだと
私は思います。

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野生の仲間たちも、平和に暮らせるといいなぁ…
(ホンドギツネ 井の頭自然文化園・東京都)

ちなみにスペイン語でキツネは「zorro」(発音はソーロ)だそうで、
「怪傑ゾロ」のゾロもこのzorroから来ているそうです。

もっとも、コチラは「ずる賢い」のではなく、強きをくじき弱きを助く、
大盗賊にして真の紳士、いわば正義のヒーローなのですが!

zorro

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