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2012年8月

2012年8月28日 (火)

ジャーナリスト 山本美香さんの訃報に寄せて

ジャーナリストの山本美香さんが、シリアでの戦闘に巻き込まれて亡くなりました。
ニュースでも大きく取り上げられたので、ご存知の方も多いかと思います。

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山本美香さん
享年45歳…僕と同世代です。

生命の危険があっても、災害現場や紛争地域に赴くジャーナリストたち。
そこには大きな使命感があるであろうことは、理解しているつもりでしたが…
これまでは、亡くなられたというニュースを聞いても、「壮絶だなぁ」とは思っても、
なんだか遠い世界での出来事のように思っていました。

でも、今回は違いました。

お恥ずかしい話なのですが…
これまで僕は、山本さんのことを知りませんでした。
でも、山本さんがこれまでに残された、さまざまな言葉から…
「伝えることの大切さ」というものを、教えられたような気がするのです。

山本さんは、これまでにもアフガニスタン、イラクなどの危険な紛争地域に入り、
現地から私たちにレポートを送り続けました。
実際に私たちが目にした、悲惨な紛争の映像の中には、山本さんが取材し、
送ってくれた映像も多々あったのだろうと思います。

山本さんのようなジャーナリストは、TV局や新聞社の記者が入れないような、
大変危険な地域まで足を踏み入れて、取材活動を続けています。
戦争を扱った映画で、戦闘シーンを見るだけでも恐ろしいものですが…
実際に銃弾や砲弾が飛び交う現場の恐ろしさは、想像を絶するものでしょう。

そんな現場に入り、取材を続けた山本さんを支え続けてきた思いは、
「誰かが記録する必要があると思っている」
「伝えていくことで戦争が早く終わるかもしれないし、拡大を防げるかもしれない」

という、とてもシンプルなものだったそうです。

そして、山本さんは著書「戦争を取材する」の中で、子供たちに対して
「校庭に地雷が1つ埋まっているとしたら」と、問いかけています。
それはきっと、紛争の地にいる子供たちの状況を、日本の子供たちにも身近に
感じて欲しい…という願いからだったのではないか、と思います。

僕は、こうした山本さんの言葉に触れて…
「伝えること」と同時に、「身近に感じてもらうこと」の大切さを改めて感じました。

2011tarangire_d30_1827

サバンナモンキー
(タランギレ国立公園・タンザニア)

人間が豊かさを求め、享受していく一方で、声をあげることなく住処を追われ、
そして絶滅していく動物たちがいる…
その動物たちにも、体温があり、感情がある。壮大な進化の歴史の結果、
この地球に生まれてきた生命であることは、私たちと何ら変わりがない。
そうした動物たちの飾らない姿を捉え、身近に感じ、彼らもまた私たちの大切な
仲間であるということを、より多くの人に伝えていきたい。

僕はそんな思いを持って、動物たちの写真を撮り始めたのですが…
ここのところ、その思いも漫然としたものになっていたのが、正直なところです。
山本さんは、そんな僕に対して「原点に返れ」と教えてくれたように思うのです。

奇しくも、このブログを書いている今日…
環境省から、ニホンカワウソなど8種の動物が「絶滅した」と認定されました。
かつては日本各地にいた、ニホンカワウソ。
それが絶滅したのは、私たちが原因であることは言うまでもありません。

絶滅した仲間は、もう戻って来ません。
さらに言えば、絶滅寸前で手を打っても、もう遅いのです。
「絶滅する」という言葉が出る前に、仲間である動物たちを守らなければ…
地球の宝である、貴重な動物たち、生命が失われていってしまうのです。

そのためには、地球の生き物たちの素晴らしい世界を伝え続け、
彼らが、私たちにとって、より身近な仲間であると訴え続けること。
それが、動物と向き合う僕の務めなのだ、という思いを新たにしました。

2011serengeti_d31_6906

ライオンの親子
(セレンゲティ国立公園・タンザニア)

僕が撮っているのは、動物たち。
そして僕が撮影するのは動物園や、せいぜいアフリカのサバンナ。
山本さんのように紛争地域に入り、取材をしているワケでもありません。
ましてや、僕はプロのカメラマンでも、ジャーナリストでもない。
山本さんの思いに、そんな自分の思いを重ねるなどということは、
とても畏れ多いことだとは重々承知しているのですが。

同世代でもある山本さんの意思を、自分の心の中に引き継ぎつつ…
動物写真というフィールドで、僕として出来ることを精一杯やっていこう。
そして、より多くの人たちに動物たちの魅力を伝えていこう。
そんなことを、いま思っています。

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マサイキリン
(マサイマラ国立保護区・ケニア)

山本さん、ありがとうございます。
山本さんの言葉に、僕はチカラをもらいました。

ご冥福を、心よりお祈りいたします。


【追記(意見)】紛争地域のジャーナリストについて

今回の山本さんの事件に際しても、「自己責任」という声が聞かれます。
こうした事件に際しては、そうした声が必ずあがるものですが…

これまで、山本さんが取材してきた地域は、政府の圧力などによって、
厳しい報道規制がされていて、紛争の事実が表に見えない地域。
簡単に言えば、市民を巻き添えにし、多くの生命が失われているから、
報道規制をかけ、その事実を世界から隠そうとしている国や地域です。

そのような地域では、誰かが報道しなければ事実が世に出ません。
放っておいたら、市民を巻き添えにした戦闘が平然と続けられます。
山本さんたちジャーナリストは、そうした事実を世界に伝えるために…
そして世論を動かして、紛争を止めるために取材を続けています。

ジャーナリストの中には、その身分を特権階級と勘違いしている人や、
名声を得たいがために無謀な行動に走る人がいるのも、事実でしょう。

しかし、山本さんのように「真実を伝える」という目的で取材を続け、
自己責任を承知で、「紛争を止める」という思いで危険な地域に入り、
取材を続けているジャーナリストがいるのも事実です。

そうした思いで取材を続けるジャーナリストたちの活動については、
「無謀」「自己責任」とくくるのではなく、彼らが何を伝えようとしたのか、
それを見極め、我々もそのメッセージを受け止めていくべきではないか、
…と、個人的に思います。

アメリカ国内の世論を動かし、泥沼化したベトナム戦争を止めたのは…
危険な前線で、取材していた記者たちの写真だったということ。
その事実を、私たちは忘れてはなりません。

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