サリーとタレック

2010年1月17日 (日)

サリーとタレック ~第3話 Save the Leopard Baby!!

「サリーとタレック」第3話…前回の「第1話」「第2話」からずいぶんと
時間が経ってしまいました。

さて、前回の第2話では、生後間もないと思われるヒョウの子供が
私が滞在していたマサイマラ国立保護区のキャンプサイトに迷い込み、
子供の母親が現れるのを待つために、敢えてひと晩子供を放置した…

という話を書きました。

そして、私自身も子供が気になって眠れぬ夜を過ごし、ようやく明け方に
ウトウトとしたと思ったら…サファリドライバーのジェームスの大声が聞こえ、
「何ごとか!?」と飛び起きたのでした。

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私の良きパートナー、サファリドライバーのジェームス


【第3話 Save the Leopard Baby!!】

あわててテントから飛び出すと、ヒョウの子供が落ちていた穴の所で
ジェームスが両手を振り上げ、大声を出しています。

何が起こっているのかわからず、その様子を呆然と見ていた私の所へ
ジェームスが駆け寄ってきて、

「だいぴんさん、大変!バブーンがヒョウの子供を見つけちゃった!」

と興奮して報告してくれました。

「え?バブーン? …そりゃヤバイ!!」

一瞬、何が起こっているのかわからなかった私も、「バブーン」という名を
聞いた瞬間に、ヒョウの子供が危険な状況にあることがわかりました。

バブーンは、マントヒヒのこと。
マントヒヒにはいろいろな種類がいますが、ケニアでよく見かけるのは
「オリーブ ヒヒ」と呼ばれるマントヒヒです。

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【オリーブ ヒヒ】(ケニア・アンボセリ国立公園)
身長80センチ近くになる、中型のサルです。

サルというと、木の実や葉など植物性のものを食べる印象ですが、
このバブーンは雑食性で、動物の肉なども食べています。

ヒョウやチーターなどが獲った獲物を横取りすることもあり、
私も実際に、バブーンが獲物を横取りしているシーンを目撃したことが
あります。そんなバブーンにヒョウの子供が見つかったら…

間違いなく、捻り殺されて食べられてしまいます。
これは間違いなく、そのヒョウの子供にとって重大な危機です。

とっさに「これ以上、母親を待ってはいられない。すぐに助けたい!」と
考えましたが、いっぽうで私には大きな迷いがありました。

それは、「果たして野生動物を助けて良いものなのか?」ということです。

野生動物の場合、子供が親とはぐれてしまい、他の動物に捕食されて
しまっても、それがその子の運命であり、捕食する側の動物にしても、
自然のルールに従って捕食しているだけのこと。

つまり…

ここでヒョウの子供を助け出すということは、この「自然のルール」に
反することをするコトにならないか?という迷いが私にはありました。

とりあえず、バブーンがこれ以上近寄らないように、キャンプサイトの
アスカリ(夜警のこと:キャンプサイトでは、野生動物が来ないように
夜通し見張りをしてくれるマサイ族の人がいます)に見張りを頼んで、
私は現地のスタッフたちと「助けるべきかどうか」を相談をしました。

その結果、
 ヒョウは、その数が大幅に減っている動物である。
 ゴミ捨て場に落ちていること自体が『自然の環境』とは言えない。
 バブーンも人間が出すゴミを目当てに来ており、これも『自然』とは言えない
 (つまり、ヒョウの子供を食べなくても、そのバブーンは飢えない)

…ということで、ヒョウの子供を救出することに決定しました。

何よりも、現地スタッフの人たちから、
 だいぴんさんの迷いはよくわかるけれど、手を伸ばして助けられる命が
 そこにあるならば、助けるというのは「人として」当然の判断だよ。

と、言ってもらえたことが、最終的に私の「助けよう!」という判断を決定
づけるものになりました。

「よし、助けよう、その子供を」

そう決断した瞬間から、このヒョウの子供は「野生動物」ではなくなります。
その子供の運命を変える以上は、責任ある行動をしなければなりません。

しかし、私たちにはその子供を保護し、育てることはできません。
スタッフたちとさらにどうするか相談したところ、「ナイロビに、親とはぐれた
野生動物の子供を保護し育てる、国立の『動物孤児院』がある」と聞き、
この子を保護してそこに預かってもえらおう、ということになりました。

ヒョウの子供を、ナイロビの動物孤児院へ!

私たちは、引き続きアスカリ(夜警さん)へヒョウの子供を見張るように頼み、
最寄のレインジャー(公園管理官)詰所に向かい、「ヒョウの子供がいる」と
いうことと「ナイロビの動物孤児院に移送したい」という旨を報告しました。

しかし、レインジャーからは
 その子供の救出と保護は、レインジャーに任せてほしい
と言われてしまいました。せっかく救出しようとしていた私たちは「えっ!?」と
思いましたが…理由を聞くと「野生動物を捕獲することは、禁止されている。
あなた達が救出すると、あなた達に迷惑がかかるかもしれない」とのこと。

言われてみればその通りです。
ここはレインジャーに任せて、私たちは予定通りサファリに出ることにしました。

サファリの途中で、無線で「無事に保護」の連絡を受け、私たちはひと安心。
サファリからの帰りにレインジャーの詰所へ立ち寄ったところ、小さな箱の中に
ヒョウの子供が保護されていました。

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マサイマラ・タレックゲートのレインジャー詰所にて…
床に置かれたダンボールの中に、ヒョウの子供がいます。
後ろには、哺乳瓶に入ったミルクが…
レインジャーがヒョウの子供に与えようとしたようです。


これでまずは、ひと安心!
あとは、この子が無事にナイロビ動物孤児院へ届けられれば…

しかし、物事はそうは簡単に進展しないのでした。

保護はされたものの、ヒョウの子供は全然ミルクを飲まず、衰弱する
ばかり。ナイロビ孤児院への移送も、なかなか進展しません。
「このままでは、この子は助からない!」

この後、ヒョウの子供を助けるべく、さまざまな人たちの協力で
「命のリレー」が始まるのでした!

(さらにつづく…)

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2009年11月12日 (木)

サリーとタレック ~第2話 キャンプにヒョウがいる!~

「サリーとタレック」第2話です。

前回の第1話では、愛媛県立とべ動物園でメスのヒョウ「サリー」が
誕生したことをご紹介しました。

今回は、もう1頭のヒョウ「タレック」のお話です。

タレックは現在、ケニアのナイロビにあるナイロビ動物孤児院にいる、
オスのヒョウです。

タレックは2006年9月生まれ。
今では立派なヒョウになり、動物孤児院の人気者です。
このタレックと私との出会いは、まさに「運命的」と言えるものでした。

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【タレック】今は立派なヒョウになりましたが…

【第2話 タレックがやってきた~キャンプにヒョウがいる!?】

2006年9月上旬、マサイマラ国立保護区に隣接したキャンプサイトを
ベースにして、私はいつもの通り写真を撮っていました。
ある日の夕方、サファリからキャンプサイトに帰って来ると、待っていた
キャンプの料理を担当しているコックのボニーさんから、

 「だいぴんさん、そこにレオパード(=ヒョウ)がいるよ!」

…と、声をかけられました。

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【ボニーさん】キャンプの時には、いつもお世話になっているコックさん

 「え!?レオパード? それも『そこ』にいるって!?」

それにしても肉食動物、それも大型のヒョウが「そこにいるよ」だなんて、
ボニーさんもノンビリしているよなぁ。それとも、いつものジョークかな?
…と思って、「??」という顔をしていたら、ボニーさんがさらに

 「そこのゴミ捨て場にいるから見に行っておいでよ」

と言うので、「まぁ、ジョークだろうな」と思いつつ、何か面白いものが
あるんだろうなぁ、と、キャンプサイトの端にあるゴミ捨ての大きな穴に
近づいていくと…

 「ンギャー、ンギャー」

何だか動物の声、それも明らかに動物の子供の声が聞こえてきます。

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【ゴミの穴】ここから、声が聞こえてくる…(この写真は後日撮影したもの)

 「ん? なにがいるんだ!?」

駆け寄って中をのぞいてみると…
穴の底で、小さな茶色いかたまりがヨタヨタと歩きながら、鳴き声を
あげているではありませんか。

明らかにネコ科の動物。でも模様はライオンでもチーターでもない…
これはヒョウだ!ヒョウの子供だ!!

おとなのヒョウでさえ、ヒョウは「なかなか出会えない動物」のひとつ。
ましてや、子供のヒョウは、滅多に遭遇できるものではありません。
そんなヒョウの子供が目の前にいるなんて…

「嬉しい」という以前に、まずはビックリです。
しかし、そもそも、なんでこんな穴にヒョウの子供がいるのか!?

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ヒョウの子供は、このような状態で穴に落ちていました。

そして次の瞬間に思ったことは、

 「いったい、この子をどうすれば良いんだろう?」

でした。

既に時間は夕方。周囲はだんだん暗くなってきます。
マサイマラの夜は、フリースが必要なくらいに冷え込みます。
さらに悪いことに、雨が降り出しそうな雲行きになってきました。

ヒョウの子供は、ゴミの穴の底をヨタヨタと歩きながら、大きな声で
鳴いています。これから冷えます。雨も降ってきそうです。

どうすれば良い?救い上げる?放っておく?

とりあえず、ヒョウの子にとって危険が無いかどうかだけ確認し、
その場を離れて、コックのボニーさんたちの所に戻り、ボニーさんや、
ドライバーさんたちと、その子供をどうすれば良いかを相談しました。

彼らの話では、

 「母親が狩りにいく時は、子供を隠して置いておく習性がある」
 「その子供は、隠れ場所からヨタヨタと歩き出してしまった」
 「そして、誤ってゴミ穴に落ちてしまった」

ということが推察できるとのこと。そのいっぽうで、

 人によっては、ヒョウは家畜を襲う「害獣」と見る人もいるので、
 その子供も、地元の人に見つかると殺される可能性がある。

という話も出ました。
「え?そんなことってあるの?」と思いましたが…

もちろん、ヒョウに限らず野生動物を殺すことは、たとえ地元の人で
あっても禁止されています。しかし、家畜を失うことは死活問題でも
あります。ですから、たとえ子供であってもヒョウを殺してしまう人も
いるのだそうです。

そして…「助けるかどうか?」と、みんなでさんざん迷った結果、

 とりあえず、今夜は放置して母親が迎えに来るのを待とう

という結論に至りました。

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まだ目がひらいていません。生後まだ数日と思われます…お母さんはどこに?

外は雨が降り出し、気温もグっと下がり、かなり寒い状況です。
そんな中にヒョウの子供を放置するのは、私たちにとってもつらい
ことでしたが、何よりも母親が現れるのがベストなのですから、
ここはグっと堪えて母親を待つことにしたのです。

キャンプサイトで食事をしているときも、遠くからヒョウの子供の
「ンギャー、ンギャー」と母親を呼ぶ鳴き声が聞こえてきます。
お腹を空かせているだろうと思うと、食事ものどを通りません。

テントの中で寝袋にくるまって寝ているときも、やはり鳴き声は
止むことなく聞こえてきます。

  寒いんだろうなぁ、不安だろうなぁ…
  できることなら、この寝袋の中で暖めてあげたいけど…

そんなことを考えながら、母親が早く来てくれることを祈りつつ、
眠れないままに明け方を迎え…ようやくウトウトし始めたのも
つかの間、ドライバーのジェームスが上げる大声が聞こえ、
「何事か!?」と飛び起きたのでありました。

【つづく…】

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2009年10月31日 (土)

サリーとタレック ~第1話 サリー誕生~

【プロローグ】

サリーとタレック、何のことでしょう?

サリーは愛媛県立とべ動物園にいる、メスのヒョウ。
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【サリー】ちょっと小柄の、とても美しいヒョウです

タレックは、ケニアのナイロビ動物孤児院にいるオスのヒョウ。
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【タレック】カメラを意識して、ポーズを取っている?

遠くはなれた日本とケニアにいる、2頭のヒョウ。
実は、深い縁があるのです。
そして、私を素敵な縁に導いてくれました。

そんなサリーとタレックのお話をご紹介します。
とても長いお話なので、何回かに分けて掲載します。


【第1話】サリー誕生

サリーは2004年2月に、愛媛県立とべ動物園で生まれました。
父親はチャーリー、母親はチェリー。

母親チェリーはサリーを産んだあと、大事に抱えるだけでミルクを
あげる気配が見られなかったため、人工哺育で飼育員が育てる
ことに決定。ヒョウ担当のMさんがその人工哺育を担当することに
なりました。

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【生まれた直後のサリー】まだ目が開いていません

サリーは2004年2月8日生まれ。生後直後は体重が500g
あまりで、手のひらに乗るくらいの大きさでした。

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【サリーにミルクをあげるMさん】サリーの小さいこと!!

人工哺育とは、「人の手で哺乳しながら育てること」です。
「こんなに可愛いヒョウの子を育てるなんて、いいなー!」と
思われる方もいらっしゃるでしょう。

でも、実は大変なことなんです。

Mさんは、日中は飼育担当者としてのお仕事をしながら、3時間
おきにサリーに授乳。

そして夜は自宅に連れて帰り、やはり3時間おきにサリーに授乳。

子供を育てたことがある方なら、おわかりになると思いますが、
「3時間おきに授乳」というのは、すごく大変なことです。
それも、日中は通常のお仕事をしながらですから…。

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【Mさんの自宅でくつろぐサリー】夜は自宅に連れて帰って哺乳です

人工哺育を担当されたMさんのお話を伺うと、

  哺乳瓶の消毒、ミルクの準備、授乳、後片付けをすると、
  合計で授乳には1時間以上かかるんです。
  だから、3時間おきにミルクをあげようとすると、
  夜は2時間おきに起きなければならなかったんです。

さらにMさんは、こんなことも話してくれました。

  寝不足で出勤、という毎日も厳しかったですけれど、
  なによりも「サリーに何かあってはいけない」という
  プレッシャーの方が厳しかったですね。

  でも、それは同時に励みにもなった。
  ヒョウの子供を育てるという、めったに出来ない体験を
  させてもらっていること自体が、幸せなことですから。
  もう、無我夢中でサリーを育てました。

 
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【体重計測】体重1700g。あっという間に大きくなります。

人間の赤ちゃんならば、育児のノウハウもたくさん蓄積され、
育て方の情報を入手することができます。

しかし、ヒョウの赤ちゃんの場合は、そのようなノウハウが
ほとんどありません。ネコ科の動物ですが、ヒョウは元来野生
動物で、ネコよりはるかに大きく、さらにチカラも違う動物です。

 どのくらいのミルクをあげれば良い?
 理想的な体重の増加は?
 離乳させるタイミングは?
 離乳させるときに、何を代わりにあげれば良いのか?

暗中模索をしながら、Mさんの人工哺育は続きました。
もちろん、とべ動物園も英知を結集させ、周囲のスタッフも
Mさんを支援し続け、サリーはすくすくと大きくなりました。

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【Mさん、疲れ果てて…】なんとも微笑ましい光景です。

そんなMさんの悪戦苦闘の経験が、その数年後にケニアの
サバンナで生まれた1頭のヒョウにつながるとは…

サリーもMさんも、全く思ってもいなかったことは言うまでも
ありません。

【つづく…】

※今回のブログに使用したサリーが小さい頃の写真は、愛媛県立とべ動物園から
 ご提供いただき、事前に許可を得て掲載したものです。

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